へなちょこあかりものがたり

その19 「映画館にて」








 ぶぶー。
 ぱっぱー。

 といっても、別に赤ちゃんをあやしているわけではありません。
 今日は、浩之ちゃんとマルチちゃんと三人で、街に出ているのです。

「この辺りも車が増えてきたなぁ」
「そうだね」
「おめーらトロいんだから、注意しろよ」
「はいぃ」

 ぶっきらぼうにそう言ってくる浩之ちゃん。
 そんな浩之ちゃんの横顔を見ていると、何だかおかしくなってきて。

「うふふぅ」
「何笑ってんだ、あかり」
「ううん、なんでもないよ、浩之ちゃん」

 ぺし。

「変なこと考えてるんじゃねえ」
「あ……えへへ」

 そんなことをやっているうちに、私たちは目的地、映画館につきました。



「何にすっかなぁ」
「あ、あれ見たいな」
「あれ? ……おい、また熊かよ」
「えー、かわいいよ」
「ま、いいけどよ……マルチはどうだ?」
「はい、私も見たいですー」

 しゃーねえなあ、そんな顔で笑いながら、浩之ちゃんは窓口に行って切符を
買ってきて、一枚を私に、一枚をマルチちゃんに手渡した。

「んじゃ行くか」

 つまらなさそうにそう言って、さっさと歩きはじめる浩之ちゃん。

「うんっ」

 その後を追っかけて、私たちも映画館の中に入っていくのでした。




 上映の始まる前の映画館の中は、なんとなくざわついていました。
 子供たちのおしゃべりする声なんかも聞こえて、わくわくするみたいな感じ。

「このへんにするか」

 そんなことを言いながら、どっかりとイスに座る浩之ちゃん。
 私たちもそのあとに続いて、イスに座ります。

「楽しみですー」
「うふふ、そうだね」
「はいー」

 浩之ちゃんを挟んだあっち側にいるマルチちゃんとそんなことを言いながら、
私たちは、まだ何も映っていないスクリーンを眺めていました。

『大変長らくお待たせいたしました……』

 やがて、アナウンスが入り、劇場全体が暗くなってきて。
 スクリーンに、可愛らしいクマちゃんが大写しになった。

「うわぁ……」

 思わずタメイキを漏らした私に、浩之ちゃんは呆れたように笑いかけてきた。
 それだけで、何だか頬がぽぉっと熱くなってきて。
 そんな私を見て、浩之ちゃんの顔が意地悪く笑って。

「ここで、できるか?」

 そんなことを突然問いかけてくる。

 ……そんな、ここで、なんて……。

 きょろきょろとまわりを見回すと、お客さんたちはみんな画面に集中してる。
でも……ここで?
 すがるように浩之ちゃんを見ても、浩之ちゃんはただじっと笑ってるだけで。

 ……本気、なんだ……。

 ごくん。
 喉に絡みついていたつばを飲み込んで。
 私は……そっと、服をくつろげていく。

 ブラウスのボタンを外し、スカートから裾を抜いて。
 人いきれで湿った空気が、私の肌を撫でていく。

「あっ……」

 ぶるぶるっ。
 まだ、何もしていないのに、身体が小さく震える。
 驚きと快感の混じった声が、私の唇を割って零れ落ちる。

 そんな私のほうを見て、浩之ちゃんは冷たく笑っていて。
 私はそんな浩之ちゃんを見ながら、ブラのホックを外して……そして、誰が
見ているとも判らない映画館の中で、ブラジャーを脱ぐ。

「……んっ……」

 恥ずかしい。
 恥ずかしい。

 その言葉だけが、その感情だけが、私の頭の中をぐるぐると駆け回って。
 でも、それは、イヤな感覚じゃなくて……むしろ、快感で。

「……はぁ……」

 熱い吐息が、私の唇からこぼれて空気に溶けていく。
 この映画館の中でたった一人、いやらしいことをしている私。
 震える指で、今度はスカートのホックを外すの。

「……や……あ……」

 上げるつもりのなかったいやらしい声が小刻みに震えて零れ落ちていくのは、
自分でも判るぐらいに、ショーツがじっとりと重く濡れているから。
 すごく熱くなっている私の……足の間のいやらしいところは、お気に入りの
白いショーツが透けるぐらいにたっぷりのお汁をこぼしていて。

「だめ……っ……」

 浩之ちゃんに知られちゃうと思うだけで、身体がかっと熱くなって、まるで
風邪を引いた時みたいにブルブルと震えはじめる。
 身体が震えるたびに、私のアソコからは熱い液が溢れ出てくる。

「やぁ……はず、か、しい……」

 回りに人がいるのに。こんなにたくさん。
 誰かに気付かれたら言い訳できないぐらい、恥ずかしいことをしてる、私。
 いくらそう思っていても、でも、指はずっと動きつづけるの。
 申し訳程度に貼りついていたショーツを引きおろすと、黒い茂みをやさしく
指で撫でつけながら滑りおりていく。

「んっ……はぁっ……」

 ブルブルと震える身体を鎮めるように、あるいは逆にかき立てるように。
 私の指は、私の一番恥ずかしいところを刺激しつづける。
 大きく脹れ上がった小さなクリトリスや、その下の濡れた秘密の穴。
 私の指は休むことを知らず、ただひたすらに刺激を求めてさまよっていた。

「……何だお前、もうこんなに濡らして……」

 耳元で、浩之ちゃんの囁き声。
 興味ありそうに、嘲るように、そして、つまらなさそうにそう言って。
 私の肩ごしに手を伸ばし、大きな手のひらで包むようにおっぱいに触って。

「んっ……」

 それだけで、硬くなっている私の乳首は、雷のような刺激を全身に走らせる。

「相変わらず感じやすいな、あかりは」
「んっ……や、こんなことろ……恥ずかしいよ……」
「大丈夫だって。誰も見てねえよ」

 そう言うが早いか、浩之ちゃんは席を立って、私の目の前に回り込んで来て。
私の膝を掴んで足を広げさせると、その間にしゃがみ込んだ。

「やだ……はず……んんっ!!」

 浩之ちゃんを止めようとした言葉は、でも、最後まで口には出来ないの。
 だって、浩之ちゃんが私の足の間に……クリトリスに、キスしてくるから。

「ひぁっ……ああっ……」

 必死で声を抑えようとしても、そんなのははかない抵抗で。
 ガクガクと身体を震わせ、喉を仰け反らせて、私はただ翻弄されつづける。

「あ、やぁっ、あっ、ああっ……んんっ」

 ビクン。
 私の身体が大きく震える。
 それは、私が絶頂を迎えた印。

「あ……ああ……」

 たらり、と涎が一筋、私の唇の横から零れて、手すりに落ちる。
 まるで抜け殻のようになった私に、浩之ちゃんは優しくキスをしてくる。

「あ……んっ……」

 どこまでも甘く、淫らなキス。
 舌で舌を洗うような、手加減のないキス。
 その中に隠された、熱い愛情が、私の中に流れ込んできて。

「んっ……ん……」

 思わず、子犬のように鼻を鳴らして、私は浩之ちゃんにキスを……

 ぺし。
「あ」

 呆れたような顔の浩之ちゃんが、私の前にしゃがみ込んでいた。
 映画館の中は、もう明るくなっていた。

「……おめー、上映中ずっと寝てたんだぞ」
「え」
「寝不足だかなんだかしらねーけどよ、大丈夫か?」
「……んっと……うん」

 その私の返事を聞いて、しょーがねーな、という笑いを浮かべる浩之ちゃん。

「で? どうすんだ、これから」
「んっと……映画、ちゃんと見たいな」
「私ももう一回見たいですー。感動しましたー」

 本日三度目の「しょーがねーな」。
 浩之ちゃんはもう一度イスに座ると、背もたれに思いっきり身体を預ける。

「2回目だけだぞ」
「う、うんっ」
「はいー」

 それからしばらくして、また劇場のライトが落とされ、そして上映が始まる。

 ……今度は寝ないようにしようっと。




<つづく>
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