へなちょこセリオものがたり

その163「馬並みなのね」








 ばしゅー。

「ん?」

 マルチの頭から、突然煙が上がった。

「ほにゅ?」

 当の本人はと言えば、何事もなかったかのように俺の膝の上で不思議そうな
顔をしていて。

「今の、何?」

「わかりませんですぅ」

 オーバーヒートしたわけでもないのに、白煙が上がるとは。
 しかも今回はちょっと焦げ臭い。

「何かヤバいんじゃないか、今の煙」

「でもでも、特に異常はありませんよ?」

 異常じゃなくて、何で白煙が出るんだよ。

「待て待て、セリオに診てもらおう」

 セリオ先生、出番です。

「セリオー、セリオー」

「はい、何でしょうか」

 キッチンからセリオが姿を現せる。

「マルチの奴が頭から煙出してな、ちょっと原因の追求を頼みたい」

「はい」

 と答えると、手首をぱしゅっと開いて何かのコードを取り出すセリオ。
 マルチの手首も同様にぱしゅっと開いて、そのコードを接続する。

「診断プログラム、実行します」

「便利だな」

 俺が感心して、そう言った途端。

「はい、終わりました」

「……早いな」

「マルチさんの自己診断回路が故障した模様です。普段の生活には差し障りは
ありませんが、万一を考えて早急に修理した方がよろしいです」

 なるほど、自己診断が出来ないから異常がないとマルチが自己判断したわけ
であったか。

「すぐ直る?」

「ええ、研究所へ行けば小1時間程度で」

「んじゃ直してもらおう」

 直せるなら早いうちに直すに限る。
 それに長瀬のおっさんも暇だろうしな。

「ではハイヤーを呼びますネ」

 セリオは耳カバーに手を添えて、2言3言。
 ハイヤーって……そんなことしなくても、いつものようにバスで行けばいい
のに。
 いや待てよ、実は重大な故障であって大急ぎで直さなきゃいけないとか?
 なるほど、なればこそハイヤーか。
 ……と、2・3分経った頃。

 ぴんぽーん。

 チャイムが鳴らされ、セリオがマルチの手を引いて立ち上がる。

「……来ましたね。マルチさん、参りましょう」

「あ、俺も俺も」

「いえ、2人乗りですから浩之さんは家でお待ちを」

 2人しか乗れないハイヤーって何や。
 でもまぁいい、見送りくらいはしてやろう。

「あれに乗るんですかぁ……?」

「ええ、あれが1番速いですからネ」

 マルチは謎のハイヤーの正体を知っている模様。
 俺の中の謎は深まるばかり。
 2人の後を追って、表に出ると。

 ひひーん。

「……馬?」

 サラブレッドのような馬がいた。
 ただし、全身メタリックだったが。

「『風雲再起』と言います。燃料は人参、排気ガスも出ない実にエコロジック
な乗騎デス。最高時速は実に200kmを楽に超え……」

 なるほど、人参エンジンか。
 どんな仕組みになっているんだろう。

「いや、そんなことを聞いているんでなくて」

 とか俺が言っている間に、セリオはマルチを担ぎ上げ。
 そして風雲再起とやらにひらりと飛び乗り、手綱を握る。

「それでは行って来ます、浩之さん」

「お、おう」

「うう、お馬さんに乗るのは苦手なのですぅ〜」

 それで嫌がってたのか。
 でも、毎晩のように俺に乗っているから大丈夫だろう。

「元気で帰って来いよ」

「ううっ、はぁい……」

 ひらひらと手を振ると、マルチは不安そうにセリオにぎゅっと抱き付く。
 それを確認してから、セリオは拍車を蹴った。

「では……はいやー!」

 ぱからっ、ぱからっ……。

「……あー」

 なるほど、それで『ハイヤー』ね。
 何だか笑う気にもなれん。
 と思いながら家の中に戻ろうとしたら、何故か思い出し笑いをしてしまった。 

「あのセリオが、駄洒落……?」

 ぷっ……くっくっく。
 帰って来たらネタにしていぢめてやろう。

 不謹慎ながら。
 それが楽しみで、マルチのことは既に忘れてしまった俺なのであった。






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