へなちょこセリオものがたり

その166「藤田家下着事情」








「くかー……」

 昼間っから大口を開けて、居間のソファーで寝ているマルチ。
 おーおー、だらしない格好で……ちょっと覗けばぱんつ丸見え。

「今日は苺模様か……」

 うむ、可愛いものよのう。

「……浩之さん、何をなさっているのですか?」

 びくぅ。

 気が付けばセリオ。
 これって結構怖い。
 いや、マルチのぱんつに夢中になっていた俺が悪いと言えば悪いのだが。

「いや何、抜き打ち服装チェックさ」

「あらまぁ大変、それでは急いで着替えて来なくては」

 待て。

「着替えたら抜き打ちの意味がないだろ?」

 がしっとセリオの肩を掴む俺。
 セリオは引きつった顔でゆっくりと振り返ると、引きつった笑みを浮かべ。

「あの、その……」

 たらり。

「セリオが冷や汗とは珍しいな。勝負ぱんつでも履いてるのか?」

 意外な展開に戸惑いつつも、俺はにやにやしてセリオのスカートをめくろう
とする。
 が、セリオは慌てて飛び退り。

「駄目ですっ、これだけはいくら浩之さんにでもお見せするわけにはっ」

「何だよ、いつもなら『ちょっと恥ずかしそうにでもそれでいて俺の言うこと
には逆らえなくて徐々にスカートをめくり上げて純白のぱんつを晒す』くらい
はしてくれるじゃないか」

 じりじりと俺は、セリオとの間合いを詰める。
 そしてセリオも、じりじりと後退して行く。
 緊迫した空気……いつものほんわかした空気とは、明らかに異質だ。

「どうした? 俺に見せられないような、いけない下着を履いてるのか?」

「ひっ……浩之さんだからこそ見せられないのデス」

 その表情は必死で、かつ恥ずかしさに溢れていて。
 ここまでされたら、俺の獣性の部分がむくりと起き上がり始める。

「ふっふっふ、そこまで言われたら見ぬ道理はないのう」

 じりじり。

「お願いですから今回だけは見逃してください」

 いつも強気なセリオが、この有り様。
 これではもっといぢめてくれと言っているようなものではないか。
 一体、どんな大胆な下着を履いているのだろうか。
 それとも、たまには妖艶な方向で攻めて来るのだろうか。

「お前には初めてだったな……この技を使うのは」

「……はい?」

 本当に余裕がないのだろう、じわじわと俺に部屋の隅に追いつめられている
ことにも気付いていない。
 そして、セリオの背中が角に当たった刹那。

「うりゃ!」

 しゅぴんっ!

 セリオの反応速度を上回る、正に瞬速の動き。
 俺も何でそんな速度で動けるかわからないが、この技を使う時だけはとても
素早く動けるのだ。

「ふあっ!?」

 そして俺がくるりと後ろを向くと同時に、胸元とスカートを押さえるセリオ。
 だが、全てはもう遅かった。

「ふむふむ、ブラは至って普通……どれどれ、ぱんつは?」

 と、小さく丸まったそれを広げようとする俺。
 セリオはもう全てを諦めたかのように、床にへたり込んで。

「ああっ……」

「ふっふっふ、やはりセリオもか弱い女子よのう」

 んで、いざぱんつを見てみたら。

「…………」

「…………」

「何、これ」

「だから見せられないと申しましたのに……」

 呆気に取られながら振り向くと、ぽろぽろと大粒の涙を零しているセリオ。
 俺は何だかとても申し訳ない気分になりながら、下着を返した。

「マルチも寝てることだし、このことは俺達だけの秘密……いやさ、なかった
ことにしようじゃないか」

「ううっ……マルチさんが全部洗濯してしまって、お正月に買った福袋の中に
入っていたこれしかぱんつが残っていなかったのデス……」

 ぽんぽん、と俺は彼女の頭に手を置く。

「俺が悪かった。お詫びに何でも言うこと聞いてやるから」

 これを見た瞬間、俺の中にあった獣性は一瞬で萎え切ってしまっていた。

「ぐすっ……はい……」

 それは『どすこい』とプリントされたぱんつ。
 真ん中にでかでかと、これでもかと言う程に。
 セリオは一体どんな気持ちでこれを履いていたのか。
 俺には想像も出来なかった。いやむしろ想像したくない。
 恐るべきは、これを履くことを決断したセリオの精神力よ。

「なぁ、セリオ」

「ぐすっ、すんすん」

「新しいぱんつ、買いに行こうな」

「はい……」

 ぎゅっ、と俺のシャツの裾を握り締めるセリオ。
 そんな彼女を、心底可愛いと思った。
 『どすこい』が頭の中をぐるぐる駆け巡っていたりしたけどな。






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