へなちょこ芹香ものがたり・番外編

「ばれんたいん魔女」








 こんこんっ。

「…………」
 浩之さん、少しよろしいですか
「あ、先輩? いーよ、入って」

 俺は読んでいた雑誌を枕元に伏せ、ベッドから身を起こして開かれるドアの
方に向き直る。
 そこには……真っ黒の帽子、同じく漆黒のマントに身を包んだ先輩の姿が。

「…………」
 あの、今日はお日柄もよろしく
 ぺこり。

「あ、ああ。今日はいい天気だな」

「…………」
 付きましては、これをどうぞ
 『これをどうぞ』……そう言って先輩は、マントの下から何かを取り出して。

 ふぁさっ。

「ん……これ、マフラー?」

 こくこく。

「…………」
 お気に召したでしょうか
 そのマフラーは黒。
 先輩の衣装と同じ、深くて濃い黒色……。

「ありがとう、先輩……って、もしかして先輩とお揃いの色?」

 マフラーの片端を手に取り、そのふわふわした手触りを堪能して。
 それとなく先輩に聞いてみると……頬を少し染めながら、俺の首にマフラー
を巻いてくれて。

 しゅるしゅる……。

「…………」
 は、はい
 こくこく。

 そっか、お揃いかぁ……。
 などと、マフラーをかけ終わるのをじーっと待っていたのだが。
 いつまで経っても終わらない上に、段々息苦しくなって来た。

 しゅるしゅる……。

「ちょ……先輩?」

「…………」
 ちょ、ちょっと長過ぎました
 普通はせいぜい、2・3巻きだろう。
 ところが先輩のマフラーは……やたら長くて、5回巻いても6回巻いても。

「……あのさ、先輩」

 俺は1度、マフラーを全部解いてしまい。
 ちょっと不安そうにしている先輩の肩を抱いて、そっと抱き寄せて。

「わざと長く作ったんだろ? ……ほら、こうする為にさ」

 しゅるるるるんっ。

「…………」
 あっ
 言葉につまる先輩を他所に、自分と先輩の首とにそのマフラーを一緒に巻く。
 ふんわりと先輩の香りを感じながら、先輩の体温を感じながら。
 
「よっと……ほら、丁度いいじゃん」

「…………」
 そういうことにしておいてください
 こくこく。

 俺の胸に抱かれながら、小さく頷く先輩。
 ……それが何だか、とっても可愛くて。

「先輩……折角マフラーしたんだしさ、少し散歩でもして来ようか?」

「…………」
 ……はい、お供します
 こくこく。

 先輩の了承を得て、俺はにっこり。
 先輩の肩を抱いて、2人で玄関へ向かう。

「マフラー、暖かいね」

「…………」
 ……はい
 表に出る前から、そんなことを言うのも何だけど。
 こんなに暖かいんだから……寒いことなんて、きっとないさ。

 ……な、先輩。






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