へなちょこ綾香ものがたり

その12「秘密の小話」








「ねぇ浩之」

 綾香がこっそり俺の傍にやって来た。

「あ? 何よ?」

「しっ、静かにして……誰かに聞かれるとマズいから」

 ぴと。

「お、おう」

 俺の唇に当てられた綾香のしなやかな指にどぎまぎしながらも、俺は頷く。

「でね、ちょっと耳貸して……」

「うむ」

 いつものおどけた調子とは違い、至って真面目な綾香。
 俺も自然と神妙な気分になってまう。
 
「あのね……」

 ぽそっと耳にかかる吐息が心地いい。
 が、そんなことを今口に出したらぐーで殴られるだろう、ぐーで。

「マルチとセリオのことなんだけど……」

「あの2人がどうかしたのか?」

「いえね、ずっと前から思ってたんだけど」

「だから何よ」

 居間の真ん中でぼそぼそ会話を交わす俺達、さぞかし間抜けに見えるに違い
ない。

「マルチとセリオってさ」

「うむ」

「絶対合体とか変形しそうじゃない?」

 ……はぁ?

「何言ってんだよ、そんな面白さ大爆発機能があったら速攻見せるだろ。俺に」

 って言うかそれはそれで面白い。
 が、何故俺のところに来る。

「あのなぁ、いくら長い付き合いだとは言え……俺の知らないひ・み・つ機能
の2つや3つはあっても不思議じゃないぞ?」

 長瀬のおっさんが、知らない間にひ・み・つ機能を増やしていそうだしな。
 お茶に茶柱を立てる機能とか。100%当たる下駄の天気予報機能とか。

「よーし、俺が訊いて来てやろう」

「うう、真実を白日の元にさらけ出すの?」

 びくびく。

「何だよ綾香、お前らしくもない」

 何故か身体を震わせる綾香に、俺は一緒になって震えている綾香の胸に手を
添える。
 うーむ、ふるふるしてるなぁ。

「……浩之だけだかんね。そんなことやっていいの」

「おう、知っててやってる」

 ふるふるが止まると共に、俺は残念そうに手を離した。

「つーわけで訊いて来よう」

 すたすた。

「吉報を待ってるからねー」

 ひらひらと手を振る綾香。
 ……何なんだよ、この場合の吉報って。






「訊いて来たぞー」

「おおー」

 ぱちぱちぱちっ。

「で、どうだった?」

「変形も合体もしないってよ」

「ちぇー」

 残念そうに唇を尖らせる綾香。

「お前なぁ、いくら同じメイドロボ同士だからって合体変形はないだろう」

「だってぇ、そんな気がしたんだもん」

 そんな上目で可愛く見られると……うう、許しちゃえ。

「しかし、何で俺のとこにわざわざ訊きに来たんだ?」

 そんなこと訊かれたって、奴らだって笑って答えてくれるだろうに。

「だって、笑いながら目の前で合体変形しそうなんだもーん」

 すりすりっと身を寄せながら綾香が言う。

「……だったら言うなよ思うなよ」

 綾香を抱っこしながら、俺は大きく溜め息を吐いた。






<……続かないのよ>
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